VR画像(パノラマ写真)の作り方:HDR(ハイ・ダイナミック・レンジ)合成

先日は「VR画像(パノラマ写真)の作り方:一眼レフカメラでの撮影とノーダルポイント」という記事で、一眼レフカメラを使った360°VR画像(パノラマ写真)の作り方の概要と、ノーダルポイントについて書きました。本記事ではHDR(High Dynamic Range:ハイ・ダイナミック・レンジ)合成について書きます。

HDR(High Dynamic Range:ハイ・ダイナミック・レンジ)とは

いまはスマホにも「HDR撮影機能」が付いているので一般的な言葉になりました。ダイナミックレンジとは、カメラのセンサーに記録できる光の強度の幅のことです。カメラは光を記録する装置ですが、「一番弱い(暗い)光でこのくらい」「一番強い(明るい)光だとこのくらい」という、記録できる範囲がカメラによって決まっています。その範囲のことをダイナミックレンジと言います。

肉眼だと、明るいものと暗いものが同じ視界の中にあってもある程度はそれを認識することができます。カメラの場合は人間の目よりもダイナミックレンジが狭いと言われていて、明るいものに露出を合わせると暗いものが真っ暗(黒つぶれ)に、暗いものに露出を合わせると明るいものが真っ白(白とび)になってしまうことがあります。ダイナミックレンジの制約の中で、光の量と性格をコントロールしながら空間を切り取るのが、カメラの面白さのひとつなのですが。その制約を超えるために合成技術を使うのが、HDR(High Dynamic Range:ハイ・ダイナミック・レンジ)撮影です。つまり、複数の露出設定で撮った写真を合成することで、明るい箇所も暗い箇所も綺麗に撮れている写真をつくります。

HDR合成の例。作り方によっては現実離れした写真になる。

HDR合成をすると、写真は実際よりも「ギラギラ」したり「モフモフ」したりします。この「ギラギラ」や「モフモフ」が、表現のひとつとして認知されたことでHDR合成は一般化しました。しかし、360°VR画像(パノラマ写真)の撮影では、作品性や芸術性を求めてというよりも、必要なケースが多いためHDR合成がよく使われます。

360°VR画像(パノラマ写真)におけるHDR合成の必要性

以下は、「VR画像(パノラマ写真)の作り方:一眼レフカメラでの撮影とノーダルポイント」の記事にも載せた360°VR画像(パノラマ写真)の元となる6枚の写真です。

240°と300°の角度で撮った写真が「白とび」しています。室内に露出を合わせたので、エントランス付近の明るい箇所がトンでいます。

撮影する場所の中で明暗差が大きく、一部が白とびしてしまう。

前述の6枚を合成したパノラマ写真。

レンズは広角になるほど収まる範囲が広くなるため、明暗差が大きくなり露出の設定が難しくなります。360°撮影するので、ある方角はとても明るいけれどその反対側はとても暗いとか、暗い部屋の一部に強烈な光源があるといったケースが多々あります。どこに露出を合わせてよいのか、困ります。

方向によって明るさが違ったり、暗い室内に窓や照明などの光源がある場合。

角度ごとに露出を調整すれば良いかもしれませんが、6枚の写真の見え方を厳密に統一するのは至難の技です。スティッチ(合成)する際に隣り合う写真同士の明るさに差があったら、不自然な絵になってしまいます(実際にはスティッチの際に多少調整されます)。そこで、HDR撮影を活用します。

HDR合成(オートブラケット撮影)のやり方

現在販売されている一眼レフカメラであれば、ほとんどの機種に「HDR撮影モード」が付いていると思います。HDR合成の処理もカメラの中でやってくれるモードです。これで撮影してももちろん良いですが、この記事では「オートブラケット(Auto Bracket)撮影」という機能を使って露出の違う3枚の写真を撮影する方法を書きます。

「オートブラケット(Auto Bracket)撮影」は、設定した露出に対して明るめ(オーバー)と暗め(アンダー)の写真も自動的に撮影してくれる機能です。メーカーによっては「オートブラケティング」とか「AEB」「BKT」と表記している場合もあります。「設定値」「明るめ」「暗め」の3枚を撮影するのが一般的ですが、それ以上の枚数を自動撮影することもできます。設定値から「明るめ」「暗め」の補正幅も設定することができます。0.3(1/3)段〜1.0段単位で、おおよそ±3〜5段の範囲で設定します。

露出と「段」については、「カメラの露出:EVと段について」にて補足を書きました。

白とびしていた240°の角度の写真を、±3段 3枚でブラケット撮影。

上記は、先ほど白とびしていた240°の角度の写真を、±3段 3枚の設定でオートブラケット撮影したものです。基準値として設定したのが中央で、SS(シャッタースピード)は1/6でした。これに対して-3段のSS:1/50で自動撮影したものが左、+3段のSS:1.3で自動撮影したものが右です。アンダー(暗め)で撮った左の写真でも白とびはしていますが、窓の外の景色もかろうじて残っています。

ブラケット撮影した3枚の写真を合成したもの。

オートブラケットで撮影した3枚の写真を1枚にHDR合成したものが上記です。白とびしていた箇所が若干救われ、写真全体の明暗差が緩和されて自然な見た目に近づきました。

さて、HDR合成を前提にした360°VR画像(パノラマ写真)のブラケット撮影では、カメラのオート機能は使わずに、マニュアルで露出設定を決めます。決めた値は基本的に変えずに6角度(または4角度)一周を撮影します。この時オートモードを使ったり、角度毎に設定を変えて撮影してしまうと、スティッチ(合成)の際に自動処理ができなくなり一手間増えてしまいます。基準となる露出は、被写体がある場合は被写体の居る角度に合わせます。明暗差が大きなエリアがある場合、その角度で白とびや黒つぶれのないような露出を探します。ブラケット撮影の枚数が多く補正幅が大きいほどHDR合成の特徴はよく表れますが、3枚(基準値1 + アンダー1 + オーバー1)で補正幅±3段くらいが、自然な画像に仕上がります。

60度ずつ6角度、それぞれオートブラケットで3枚撮影した場合、以下のように合計18枚の素材写真になります。

1角度につきオートブラケットで3枚。6角度で3×6=18枚の素材写真。

これに加えて、三脚や底面の穴を消すために「真下」を撮影するケースもあります。「三脚消し」と言われるもので、どうしても写り込んでしまう底面の三脚を消すことで、真下を向いた時に宙に浮いているような、不思議な360度画像になります。これについてはまだ別途書きます。

これで、一眼レフカメラで撮影・制作する360度VR画像(パノラマ写真)の素材画像が準備できました。次はこの18枚の写真を1枚のエクイレクタングラー画像に合成・出力する手順を書きます。